動作と言葉だけなら訊かれているようにしか思えないけれど、これは翠葉の心の声。
 たぶん、俺が訊いても訊かなくても、ここに俺がいてもいなくても、ひとりポツリと口にしたであろう言葉。
 翠葉のことを見ていると、時々つらくなる。
 自分の中にある気持ちと真正面から向き合う姿を見て、痛々しいとすら思う。
 それは悪いことではなくすごいことのはずなのに、どうしてか見ていてつらくなる。
 翠葉がかわいそうとかそういうことではなく、たまには見なかったことにしちゃえばいいのに、と思う自分がものすごくずるい人間に思えてくるから。
 結果、俺は遠まわしにその切実な疑問から逃げる。
 翠葉の頭に手を置いて、
「急がなくてもいいんでない? 何が違うのか、自然と――いつか気づくよ」
 一見してなんてことのない言葉で普通の返答。
 でも、俺はこれを「逃げ」だと確信して話している。
 相手がどう受け止めるかとか、周りがどう見ているかなんて関係なくて、言ってる俺の認識の問題。