「そう、自分が全部やらなくても任せられる人間がいるからほかのことができる。……きっと、そういうことだよ」
 にこりと笑うと彼女の瞳が揺れた。
「だから、翠葉ちゃんはそんなに不安がらなくて大丈夫」
 大切そうにカップを包む白い手を、自分の手で包み覆った。
「翠葉ちゃんはちゃんと必要とされてるんだよ」
 ここにも君を必要としている人間がいる。気づいてほしい――。
 手に力をこめようとしたら、俺の手の内側で彼女の手が縮こまった。
 縮こまった、というのは俺からしてみたら、で彼女は自分の手に力を入れただけだろう。
 その意味は――?
「あ」
 掛け時計の長針が十二を跨ぎ、新たなる時間を刻み出す。
 六時、タイムオーバー――。