ベンチはちょうど木陰に入っていた。
 そんなことにほっとする。
 ほかの女相手には、いつだって自分本位で行動してきたのにな……。
「座って」
 彼女を促すと、ベンチの端に浅く腰掛けた。その彼女の右隣に座り、
「返事を聞かせてくれる?」
 こんな顔をしている彼女に切り出させるわけにはいかなかった。
「――秋斗さん、あの……」
「うん」
 彼女は、焦点の定まらない目で芝生を見ながら話し始めた。
「私は……秋斗さんがすごく好きです。でも――私は……私は……秋斗さんとは一緒にいられない――」
 俺は彼女を斜め後ろから眺めるように座っていた。あまりにも彼女が浅く腰掛けたからこその位置関係。
 そして、今は後ろ姿にも関わらず、体中に力が入っているのが見て取れた。それは藤山でキスをしたときの比ではない。
 それにしても――。
「やな答えだね。……好きなのに一緒にいられないって何?」
「――ごめんなさい」
「……正直、水曜日までは振られるなんて少しも思ってなかった。それがどうして百八十度変わってしまったのかが知りたい。実のところ、藤山を散歩したときにはいい返事が聞けるかもしれないって期待したよ」
 今でもまだ期待はしている。それは返事ではなくて雅のことを話してくれはしないだろうか、と。
 話してさえくれれば引き止めることだってできる。
 ……あぁ、それは即ちいい返事を期待していることになるんだろうか。俺もぞんがい往生際が悪い。
 彼女は何も言わずに俯いていた。