「翠葉ちゃん?」
「あ……えと――」
 必死で繕うかのように言葉を探す彼女。
 ベンチまではあと十五歩くらい。
 まだ、まだ待ってくれ――。
「今日は日焼け止めを塗ってないでしょう?」
「……はい」
 きょとんとした顔で見上げてくる彼女に、自分が着ていた麻のジャケットを羽織らせた。
「焼けたら痛い思いするんでしょう」
 いつもと変わらない笑顔を添える。
 そして、彼女の手を取り最後の十五歩を歩いた。
 十五歩って、こんなにも特別な距離だったんだな――。