けれども、この件に関しては「偶然」などひとつもないのだ。
 本当は藤宮司と同学年になるよう私を産むはずだった。が、うまくはいかず、その翌年、紅子様が海斗を身篭ったという情報を得て、同学年になるよう再度計算されて母は妊娠した。
 そうして、私は生まれる前から藤宮へ通うことが決められていた。
 偶然というならば、私の性別が女であることだけだろう。
 だいたいにして、藤宮に通っている人間ならば、誰もが学友だ。
 私だけに該当するわけではない。
「バカらしい……」
 この家では私の気持ちがどこにあるかなど考えてはもらえない。

 帰宅してから着物を着ていた私は着替えるのも億劫でそのままの格好で出かけることにした。
 とりあえず、形だけは……といくつかのテキストを風呂敷に包んで。
「そうだ、餡子なら食べても大丈夫って言ってたわよね」
 ふと、翠葉の食べられるものを思い出し台所へ立ち寄る。