指に触れた髪が柔らかかった。
 次の瞬間、俺の手に翠の手が伸びてきて、両の手で掴まれた。
「っ――!?」
 翠はその手を自分の額へ近づけ、なんのご利益もない手に何かを願うような姿勢を取る。
 その手から、額から、翠の震えが伝ってきた。
 俺は何を考えるでもなく床に膝をつき、翠の背に空いている左手を回した。
 携帯が鳴っては無音になり、鳴っては無音になり――。
 それを繰り返すたび、翠はしがみつくように俺に身を寄せた。
 終いには、俺の右手を放し耳を塞ぎ目を瞑る。
 昨日の翠を見て、翠の感じている「恐怖」に触れたつもりでいた。でも、ここまでのものだとは思いもしなかった。
「翠……」
 背に回した手を解き、耳を押さえている翠の手を捕らえる。