「んっ――」
 咄嗟に体が硬直したものの、彼女はその口付けを拒みはしない。
 唇を離しては角度を変え、何度も何度も貪った。
 甘いその唇と、彼女の口腔内を。追いかけては逃げる舌を絡め取るように。
 唇を解放すると、わずかに彼女の息が上がっていた。顔を真っ赤に上気させて。
「返事聞かなくてごめん。それから、びっくりさせてごめん」
 俺の胸元でフルフルと首を横に振る彼女。それに伴って、ふわふわと髪の毛が舞う。
「でも……我慢できないくらい、そのくらい好きだ」
 抱きしめた彼女の心臓はすごい駆け足で、それでも俺の腕から逃げてしまうようなことはなかった。
 まだ、体ごと俺に預けてくれている。
 今日はすごく素直だ……。
 背中に回していた腕を少し緩めると、胸元の小さな頭が上を向いた。
 真っ赤な顔をして、「どうしよう」って顔……。
「歩こうか……」
 穏やかな気持ちで声をかけると、彼女は「はい」と恥ずかしげに答えた。