「それも、反則にしか見えないよ。……じゃ、まずは重ねるだけね」
 左手を彼女の前に差し出すと、彼女は目を瞑って深呼吸を繰り返した。そして、俺の手に自分の右手を重ねる。
 手の平に少し冷たい、それでもいつもよりはあたたかいと感じる彼女の体温が重なる。
 ゆっくりと彼女が目を開け、自分が乗せた手をじっと見ていた。
 彼女の鼓動を知らせる振動は少し速まったものの、昨日とは明らかに違う。
 しばらくすると、左手を握られる感覚があった。
「翠葉ちゃん……?」
「……大丈夫、みたいです」
 治ったのか……?
 見て取れる異変は彼女にない。
 クリアできたのかもしれない……。
 それがわかるとほっとした。
「良かった」
 と、思わず口から漏れる俺の本音。
「私もです――また傷つけちゃったらどうしようかと思った……」
 そんなふうに泣き笑いで答える彼女。
「翠葉ちゃん、大丈夫だよ……。俺はもっとひどいことをたくさんしてきてる。それが報いとなって翠葉ちゃんから返ってくるのなら、どんなことでも甘んじて受ける。言ったでしょう? そのくらいには愛してるつもりだって」