車に戻り、
「さ、行こうか」
「はい」
 返事をしたものの、彼女は俺が持つ水筒が気になるようだ。
「コーヒー好きのじーさんでね、持っていけって言われた。でも、翠葉ちゃんは飲めないね」
「私はいつもミネラルウォーターを持っているので大丈夫です」
 良かった……笑ってくれた。
「中にも自販機はあるんだ」
 そう答えると、彼女はまた何かを考えているような目をした。
 きっと、業者が大変そうとかそんなことでも考えているのだろう。
 道は緩やかな傾斜が続く小道。
 小道と言っても軽自動車が走れるくらいの幅だから、それほど狭いわけではない。
 俺と彼女の間には三十センチほどのスペースがある。どうやら、このくらいの距離なら大丈夫らしい。
 歩き始めるとすぐに紫陽花に迎えられた。
 久しぶりにじっくりと花を見た気がした。
 隣の彼女も嬉しそうにその花々を愛でている。
「……秋斗さんは何色の紫陽花が好きですか?」
「そうだな、ブルーかな?」
「私もです。でも、蕾のときのほんのり色づいているアイボリーの色も好き。紫も好きだけど、紫なら藤のお花が好きです」
「あぁ、あの淡い色はきれいだよね。この山は五月になると一斉に藤が咲き誇るんだ」
「だから藤山?」
「そう」
 彼女との会話はその場で目にしたものを話すことが多い。そして、彼女の感性の豊かさに感心するのがいつものこと。