庵は大きなものではない。中のスペースも土間と畳のニ間が同じくらいの広さで十畳ほど。
 土間の奥からは裏手にある窯へ行ける。
 中に入ると土間でじーさんが土を捏ねており、戸口の脇にスーツを来た男が立っていた。
「珍しいのぉ、秋斗がここへ来るとは。なんじゃ? 結婚相手でも決まったかの?」
「や、そういうんじゃないから。ちょっと裏山に入ってもいいかな? ばーさんの散策ルートを歩きたいんだけど」
「ほぉ……秋斗がローラの散策ルートとな」
 にやりと笑みを深める。
「……今、あまり深いこと突っ込まないでもらえます?」
「ふぉっふぉっふぉ、良い良い、誰か連れてきておるのじゃろ?」
「……確かに連れはいます。しかも、じーさんの陶芸ファンですよ」
「……ほ? それはあのお嬢さんかのぉ?」
 と、わけのわからないことを口にする。
「ならばなおさらじゃ。早う行け。……おぉ、そこの水筒を持っていくがよい。秋斗の好きなコーヒーじゃよ」
 切り株の上に置いてあったのは、赤地に深緑のタータンチェックというモダンな柄の水筒。
「……これ、持って行くともれなくこれを返しに寄る必要性が生じますよね……」
 なんて侮れないじーさんなんだ。
「今日じゃなくても良いわ。じゃが、近いうちに返しにこい」
 言うと、「話はそれまで」とでも言うかのように口を閉ざした。
「ありがとう。じゃ、持ってく。後日返しに来るから」
 と、庵の外へ出た。