「あれ?」と、私たちの前方の階段を下りてきたのは朝陽先輩だった。
 私たちの側まで来ると、ツカサの肩に腕を回した。
 朝陽先輩のこういう行動はツカサに対する挨拶みたいなものだけれど、ほかの人にしているところは見たことがない。
「何、こんなところで」
 朝陽先輩が加わるだけで、若干空気が軽くなったような気がした。
「こんなところ」が指すのは昇降口のことで、すでに教員室前の静けさはなくなっている。
 むしろ、物の搬入が行われている昇降口は人の行き交いが激しいくらいだ。
「翠葉ちゃん、歌合せはとっくに終わってるでしょう?」
 ツカサは絡みつく腕を迷惑そうに振りほどくと、「朝陽は……」と自分の腕時計を確認してから、「校内巡回中か」と呟く。