光のもとでⅠ

「お母さん、すぐに上がるから、先に帰ってて?」
「じゃ、かばんだけ預かるわ」
「ありがとう」
 お母さんの背を見送ると、高崎さんに「ごめんね」と言われた。
「え……?」
 咄嗟に振り返ったけれど、高崎さんが申し訳なさそうな顔をしている意味がわからない。
「私は高崎さんがフロントにいたら『ありがとう』を伝えたかったんですけど……?」
 今度は高崎さんが不思議そうに訊き返してくる。
「昨日、学校から届いたファックスの仕分けをしていただいていたので……。それから、一番後ろにあった用紙に書かれた言葉がとても嬉しかったので」
 高崎さんは少し驚いた顔をしてから、ふ、と笑みを浮かべた。
 人の優しさや思いやりは心にしみる。
 その優しさを痛いとはもう感じない。
 ただただ、心があたたかくなる。