自室に向かう途中、洗面所で洗濯物と闘っていた唯兄もひょっこりと顔を出す。
「早いね?」
「うん……。あのね、私の精神安定剤のひとつなの」
「ん?」
「教室の一番のり……。誰かがいるクラスへ入っていくよりも、誰もいないクラスに足を踏み入れるほうが怖くないの」
 説明すると、唯兄の表情が少し曇った。
「でもっ、それだけじゃないのよ? あとから少しずつ登校してくるクラスメイト一人ひとりに挨拶するのが……好きなの」
 人の気配がしてドア口を振り返ったとき、「おはよ!」と元気な声をかけてもらえるのがたまらなく嬉しいのだ。
 それに、「おはよう」と挨拶を返せることが――とても嬉しい。