「……はっ、翠葉っ!」
 ゆさゆさと体を揺さぶられて気づく。
「考えすぎ……」
 考え、すぎ……。
「翠葉ちゃん、今にも泣きそうな顔をしているわよ?」
「栞さん……恋愛って難しい。教科書、ないのかな」
 すると栞さんはクスクスと笑った。
「誰もが一度は考えることね。でも、恋愛に教科書はないの。問題にぶつかるごとに自分で解決していくしかないのよ。あとは……人の経験談を聞く、かしらねぇ?」
 あ――。
「司先輩っ」
 ドア口に立ったままの司先輩に声をかけると、すごくびっくりした顔をされた。
「先輩はどうしてそんなふうに想えるんですかっ!?」
 今は側にいられるだけでいい、目の届くところにいればそれでいい。
 どうして、どうしてっ!?
「相手がそういう人間だから仕方ない」
「……それはすごく我慢が必要なことですか?」
「……人によると思う。俺は自分に我慢を強いているつもりはないけど、周りの人間には我慢しているように見えるらしから」
 先輩がベッドサイドまでやってきて真正面から見られた。