「――もうっ、人前でキスしたら怒りますからねっ!?」
 秋斗さんを睨みつけても、「はいはい」と真面目に取り合ってはもらえない。
 そのまま手を引かれて玄関まで行くものの、決定的な事実が発覚する。
 靴がないのだ。
「やっぱり抱っこだね」
 と、嬉しそうに笑う秋斗さんを見たのは束の間で、すぐに抱え上げられてしまう。
 やっぱり恥かしい……。
「葵には腕を回していたのに、俺にはしてくれないの?」
「高崎さんは特別です……」
「……それ、面白くないな」
「……だって、蒼兄と同じ気がするから」
「なら別にいい、とか言ってあげられるほど心は広くないんだよね」
 そしてすぐ、唇にキスをされた。
「っ……秋斗さんっ」
「何? 誰も見てないよ?」
 と、揚げ足を取るような物言い。
「……秋斗さんは慣れているのかもしれないけど、私は……私は、慣れていないんです」
「……俺だって好きな子にキスをするのは慣れていないけどね」
 言うと、無言で靴を履き、玄関のドアを開け家を出た。