「さて、そろそろゲストルームへ戻ろうか」
 秋斗さんの言葉にベッドサイドの時計を見ると、もう五時を回っていた。
 栞さんも帰ってくる頃だろう。
 秋斗さんは当然のように私を抱えあげようとする。
「あのっ……歩けるかもしれないから、だから……手を貸してもらってもいいですか?」
 今日はベッドの上でとはいえ、体を起こしてる時間をずいぶんと取ることができた。だからと言って立ち上がれるかは不明だけれど、それでも試さずにはいられない。
「俺に抱っこされるのはそんなに嫌?」
「……そういうことじゃなくて、自分で立てるなら自分で立ちたいし、歩きたいから……」
「……了解」
 秋斗さんはため息をつくように口にした。
 上体をゆっくりと起こしてからベッドに腰掛ける。一息ついてから秋斗さんの手を頼りに立ち上がると、途端に眩暈が襲ってきた。そしてすぐ、秋斗さんの腕に包まれた。
「無理、してるんじゃないの?」
 耳もとで訊かれる。
「このくらいはいつものことです。少ししたら視界がクリアになるかもしれないから、もう少しだけ待ってください」
 少しの吐き気は否めない。それは仕方のないことだ。
 一分くらいだろうか。そのままでいると徐々に目の前が明るくなってきた。
 秋斗さんから離れようとしたら、
「残念……ずっと抱きしめていたのに」
 と、頬にキスをされた。