美波さんはお母さんの古くからの知り合いみたいだし、高崎さんとゆうこさんは蒼兄の高校の同級生。ほかにも何かが潜んでいそうで、このマンションの住人には会うたびにドキドキしそうだ。
「翠葉ちゃん、大丈夫?」
 目の前で美波さんに手を振られ、
「あ、はい……大丈夫です。なんだかびっくりすることが多くて……」
「翠葉ちゃん、私がここの住人っていうのは蒼樹くんに内緒にしてもらえるかしら?」
「え……?」
「……偶然会いたいの。偶然再会して『久しぶり』って言いたいの。だから、お願いね」
「……はい」
 ゆうこさんはとてもかわいらしい方だった。
 ロングの髪の毛に緩いパーマをかけていて、ふわっとした感じの人。実際の年よりも少し幼く見えるかもしれない。
 それに対し、美波さんは真夏の太陽みたいな人。とても元気がよくて何もかもを照らしあげるような……そんなバイタリティを感じる。
 美波さんが太陽ならゆうこさんは陽だまり。そんな印象。
「私、準が帰ってくる時間だから帰ります」
 と、ゆうこさんが部屋を出ると、
「僕、ゆうこさん送るー!」
 と、拓斗くんがベッドから飛び降りパタパタと走っていく。
「タクっ、走らない飛びつかない抱きつかないっ!」
 美波さんは拓斗くんのあとを追って部屋を出ていった。
 みんな元気……。
 唖然としていると、
「くっ、翠葉ちゃん相当びっくりしてるみたいだね?」
「それはもう……。オモチャ箱を開けた感じというか、何か開けちゃいけない箱を開けてしまった感覚に囚われるのはどうしてでしょう……?」
 そう口にして、またくつくつと笑われた。