ん……。唇が何か――。
 ぼーっとしたまま目を開けると、至近距離に秋斗さんの笑顔があった。
「秋斗、さん……?」
 口にしてみたけれど、現実味がない。
「お姫様は王子様のキスで目覚めるらしいよ。拓斗(たくと)がそう言ってる」
 え……? タクトって、誰?
 私に覆いかぶさるようにしていた秋斗さんがいなくなると、その向こうに知らない女性と男の子がいた。
「きやぁっっっ」
 びっくりしたままに起き上がると、見事に眩暈を起こして秋斗さんに抱えられる。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないです……」
 女の人はお腹を抱えて笑っているし、男の子はぼんやりとこっちを見ている。
「紹介するね。こちらが美波さん。そして、その息子の拓斗くん」
 あ、この人が――。
「おはよう。ぐっすり寝てたみたいね? 美波です。よろしくね?」
「……翠葉です。先日はお世話になりました」
「いいのよ。気にしないで?」
 私の様子をうかがっていた男の子が、
「本当に起きた……。お姫様、はじめまして。僕、崎本拓斗です」
美波さんはお腹を抱えて笑ってるし、拓斗くんはぼんやりとこっちを見てる。
「拓斗くん、御園生翠葉です。仲良くしてね?」
 声をかけると、ぱーっと向日葵が咲いたような笑顔になる。