光のもとでⅠ

「別に、こんなもので良ければいつでも貸すけど……」
 涙を拭いたあとは、ハンカチを翠の手に押し付けた。
 少し照れくさくて歩くのを再開する。
 もう私道に入っているから病院まではあと十分ちょっとだ。
 翠は、俺に引っ張られるようにして歩いている感は否めないけど、つないでいる手にはきちんとふたつの力が作用している。
 翠の手を握る俺の力と、俺の手を握る翠の力のふたつが――。

 そうだ、ひとつ思い出してもらおうか。
「翠、空回る前に俺を呼ぶっていうのは口だけ?」
「え?」
「夏休みにそういう話をしたと思うけど……。何、それも忘れてるわけ? それとも履行されてないだけ? どっち?」
 翠は「あ」と口を開く。
 ばかやろう、忘れてたいたことなんか想定内だ。