光のもとでⅠ

 翠は急いでハンカチを取り出したけれど、それは干す前の洗濯物のような湿り具合でくたびれていた。
「見るも無残な」という言葉がやけにしっくりくる。
「ほら」
 自分のハンカチを差し出すと、さらに目を見開く。
「今度からハンカチニ、三枚持ち歩けば?」
 涙を流したままの目に力がこもる。
 きっと、何か言い返そうとでも思っているのだろう。
 でも、その前に大粒の涙をどうにかしろよ。
 翠が泣いていると、抱き寄せたくなる。
 それを避けるために翠の代わりに涙を拭いた。
 抱き寄せたところで何が変わるでもないだろう。
 翠は少し焦って、少し……安心するだけ。
 俺を男として意識することはない。
 自分の行動とは噛み合わない翠の心情を考えるだけで、十分虚しすぎる。
 だから、そんなバカなことはしない。