「いつも一番のりでしょ? で、誰かが入ってくるたびに目をやってはおはよって笑ってくれる。だから、まず翠葉ちゃんの席を見る。たぶん、みんな同じ。で、いないとあれ? ってなって、情報を持ってそうな桃に訊く」
「嘘……」
「嘘じゃないよ」
 こんなことで嘘なんてつかない。
 嘘をつくならもうちょっと楽しいトラップを仕掛けるときだけ。
 彼女の数歩先でドアに手をかける。
「最初の一歩、その勇気だけはご自分でご用意を」
 ドアを開き、彼女を中へ促した。
 でも、まだ彼女の足は動こうとしない。
「ほら、勇気総動員かけて右足出して!」
 彼女は小さな歩幅で少しずつ教室へ近づく。