彼女の視線が、「どうしよう」って言ってる。
 兄ちゃん――確かに言わないでいることもできたかもしれないし、そうしたほうが今の彼女には良かったのかもしれない。
 でもさ、これで学校休まれたらたまんない。
 それこそ、俺、見て見ぬ振りしたことになる。
 だからたぶん、今俺が取っている行動は間違いじゃない。
 不安に揺れる目を見て思い出す。
 芝生広場での盛大なる内緒話こと、立ち聞き大会を。
 彼女は言っていた。
「大切なものが増えると困る」と。
 目に涙をいっぱい溜めてそう言った。
 ――「自分が何を返せるのかやっぱりわからない。もし何も返せなくて、大好きだと思った人たちが周りからいなくなってしまったら? そのときこそ、絶対に耐えられない――」
 忘れたくても忘れられない言葉。