教室に入ると、つい自分の後ろの席を確認してしまう。
 そこには机と椅子だけがあって、あるべき姿はない。
 さらにひとつ後ろの席にいる麗しきお方、桃華に訊けばきっと理由はわかるだろう。
「はよっす! な、翠葉がこの時間にいないってことは休み?」
 毎朝一番にこの教室に足を踏み入れ、次々と登校してくるクラスメイトを迎えてくれる存在、それがこの席の主である翠葉だ。
「ちょっとね……」
 桃華は言葉を濁して外へ視線を逸らす。
「あぁ、な~る……」
 具合が悪ければそう答える。違うのならば女子日和ってところだろう。
「毎回相当きついみたいだけど、あの子、ピルとか使えないのかしら……」
「薬飲んでる兼ね合いとかあんじゃねぇの? まぁ、湊ちゃんもついているから何かしら策を講じてくれるだろ」
「そうね……」
 飛鳥が入ってくればまた一騒動。