そんな彼女を見たのは一度だけで、俺のベッドで寝ていた彼女も、ゲストルームで寝ていた彼女も、保健室で寝ていた彼女も、仮眠室で寝ていた彼女も――ほかにもいくらだってあるのに、どうしてもあのつらそうな表情が浮かびあがる。
『先輩?』
「あぁ、あのさ……蒼樹たちこっちで寝てくれない?」
『いいですよ』
「寝具は木田さんに言って運んでもらうから。……だから、俺もここにいていいかな」
『いいに決まってるじゃないですか。俺たちがいたら悪さなんてできないでしょ?』
 くつくつと笑う。
 蒼樹の笑い方は翠葉ちゃんにも零樹さんにも通じるものがあって、人を小ばかにしたような響きを含まない。
『時々不安にはなります。でも、大方、俺たちは先輩を信じているんです。ま、口で牽制したりなんだかんだっていうのは愛嬌だと思ってください。じゃ、これからそっちへ行くんで』
 そう言って通話が切られた。