一から十というのはたぶんアレだ……。
 司が弓道を始めた頃に俺が教えた心の切り替えの方法。
 若槻がしょっちゅう携帯を耳に当ててると言っていたのはもしかしたらこれを聞いていたのかもしれない。
「なんかほんっと複雑……」
 この携帯に司の声が入っていて、それを頼りにしている彼女も、司がこの方法を未だに使っていることも。
 彼女が好きで彼女が大切で、かといって同じように彼女を思う司がどうでもいい人間なわけではなく――。
 俺の気持ちだって見ない振りをすることはできない。
 携帯はそっとベッドの枕元に置いた。
「翠葉ちゃん、寝るなら布団に入らないと風邪ひくよ」
 できれば起こしたくなくて、そっと声をかける。