ここ二日、蒼兄と湊先生は同じ時間に出ていく。きっと学校まで一緒に歩いていってるのだろう。
「私も早く学校に行きたいな……」
 栞さんは洗濯や掃除をしているのだろう。そういう音が聞こえてくる。
 それらが終わるとこの部屋で一緒にお茶を飲んで、そのあとは髪の毛を洗ったり体を拭いてくれる。
「髪の毛、切ってしまおうかと思ったんです」
「そんなもったいないっ」
「でも、洗うの大変でしょう? それは自分が洗うときにも感じていたことなんです。でも――昨日、秋斗さんに切らないでほしいって言われました」
「それで切るのはやめたの?」
 クスクスと笑って訊かれる。
「男の人って長い髪の毛が好きなんでしょうか? よくクラスの男子にも言われるんです」
 ことあるごとに、「その髪は切らないでくれっ」と懇願される。どこか切羽詰まった感じにも聞こえることから、いつも勢いに負けて切らない旨を伝えてしまう。
「男の人が長い髪の毛に惹かれるっていうのは統計的に多いかもしれないわ。でも、秋斗くんのは別だと思うわよ?」
「え……?」
 視線だけを栞さんに向けると、
「なんて言うのかしら……。単純な話、独占欲じゃないかしら?」
「……でも、髪の毛だけ独占しても私を独占できるわけじゃないでしょう?」
「あら手強い。でも、現に日中は自分のところで預かりたいなんて言いだすくらいだもの。そのくらいは察してあげなくちゃね?」