少しだけ意識をほかへ向けてみたものの、やっぱり彼女のことを考えてしまう。
「秋斗様、ハーブティーをお持ちいたしました」
「木田さん、ありがとう」
「膝掛けもご用意いたしましたが……」
「それは大丈夫です」
「さようですか。何かございましたらフロントへお声かけください。ステラハウスは三十分ほど前からあたため始めましたので、そろそろ良い頃合でしょう」
「ありがとうございます」
「いえ、それでは失礼いたします」
 カップを口もとに近づけると、カップからはハーブの香りが、手元からは自分の香水が香った。
「香りの記憶は残っていた……」
 思い出したのではなく、残っていた……。
 さっきのディナーでは何を思い出した?