俺は翠葉ちゃんを待ちながら、夕方にかかってきた電話の相手を思い出そうとしていた。
「竜田誉、ね……」
 そんな人間がいたようないなかったような……。
 面白いくらい記憶にない。
 でも、うちの大学で同じ学科を専攻していて万年二位だったのなら使えないこともないと思う。
 地元で就職、こっちでできた彼女と結婚、彼女を連れて地元に戻ったはいいが、彼女が地元に馴染めず、実家へ帰ると別居中。
 しょうがないからこっちで職探し……ね。
 ずいぶん入れあげているな、とは思うけど、もし相手が翠葉ちゃんで俺が同じ状況に陥ったとしたら――自宅で仕事をできる環境を整えるか就職先を変えるだろう。
 人に頼ろうとは思わないだろうが、竜田をひとつ褒めることができるとしたら、付き合いがない俺に電話をしてくるあたりは大したやつだと思う。
 とりあえず人員は必要だったし、使うだけは使ってみるか――。
「使えなければ切るだけだ」