この時点で起きるんじゃないか、と思った。
 けど、翠葉は起きることなく、今も寝息を立てている。
「あーぁ……相変わらず無防備全開だよ、まったく……」
 と、唯が翠葉の頬をつつく。
 それに、「ん……」と反応はしつつも、目覚める気配はなかった。
 車に乗っていただけとはいえ、やっぱり疲れたのかもしれない。
「若槻、お茶」
 先輩がパックを渡すと、唯はあたりを見回して入り口近くのストーブに乗るケトルを手にした。
「バカッ、火傷するぞっ!」
「あちっっっ」
 声を発した俺らに飛んでくるのは、にこやかで恐ろしい笑顔。
「おまえら、彼女起こしたら殺すよ? 殺すは殺すでも、心を亡くすほうの殺す、ね」
 声を抑えて言われるとなお怖い……。
 しかも、心を亡くすほうの殺すって、忙殺って言わないかっ!?
 命をつなぎとめつつ、唯がお茶を淹れる。と、秋斗先輩はそれまでにあったことを話してくれた。