ガラス戸から少し離れたところで携帯を耳に当てている先輩は、かなり不機嫌そうな顔をしていた。
 たぶん、俺たちにメールをしてきた時点で物音を立てないようにしていたのだろう。
 そこにかかってきた電話、ってところかな?
「悪いけど記憶にない。基本、自分の前にいる邪魔な人間しか視界に入らないから。君が次位だったとしたら記憶にあるはずがない。それにしても、どうしてこの携帯の番号――あぁ、そんなことがあったような気がしなくもない」
 なんだかひどいことを言っているような気がする。
 自分の前、ってつまりは自分よりも成績がいい人間しか目に入らないって言ってるよね。
「でも……万年次位か――。あるにはあるよ。でも、すごくきついけど……それでもやる?」
 あれは悪巧みしているときの顔だ。
「なーんか特大な蜘蛛の巣に獲物が引っかかっちゃった感じ?」
 そんなたとえをするのは唯。