「そうか。……で、何かあったか?」
『え……?』
「翠葉は基本、メールにはメールを返すだろう?」
 悲しいことに、この着信音が鳴ることはめったにないのだ。
 娘は相手のことを考えるあまり、リアルタイムでつながることのできる電話というアイテムを避ける。
 何か用があるときでも、基本はメール。
 もちろん、メールに対しての返事もメール以外はあり得ない。
 そんな娘が電話をかけてきた。
 何もないわけがない。
『あのね……』
 それはそれは小さな声だった。
 気をつけて聞いていないと、こちらで吹いている風の音にかき消されてしまいそうなくらい小さな声。