彼女はまだ木に向かって座ったままの状態だった。
「翠葉ちゃん、ここは日陰。冷えるよ」
 そう言って、自分のジャケットを肩からかける。
「ありがとうございます……。日陰は本当に寒いですね」
 涙声をごまかすように笑みを添える。
 けれど、目は赤く、顔は青白かった。
 そんなふうに堪えなくてもいいのに……。
 もし、ここに現れたのが俺ではなく司なら、君はもっと素直になれたのだろうか……。
「手がかじかんで、うまくシャッターが切れないみたいです。だから、今日は諦めようかな……」
 たまらなくなって彼女を抱き寄せた。
 何も考えなかったわけじゃない。
 パニックを起こしたらどうしようとか、拒絶されたらどうしようとか……。
 考えたけど、それでも抱きしめずにはいられなかった。