「だから、そのときはノックでもいいし、携帯を鳴らすでもいいから、戻ってきたいときに戻っておいで」
「……はい」
「日陰に入ると気温がぐっと下がるから、それだけは気をつけるんだよ」

 彼女を送り出したあとも部屋の中から彼女を見ていた。
 ちょっとしたストーカーの気分。
 向こうからこっちは見えないのだから。
 彼女はその場でぐるりと周りを見回し、一歩進んでは立ち止まる。
 きれいな景色に目を奪われているのだろうか。
 彼女らしいと思うのに何かが引っかかる。
 少しすると、一本の紅葉(もみじ)に近寄りカメラをかまえた。
 けれども、かまえるたびに首を傾げてカメラを下ろしてしまう。
 プレビュー画面を確認しているようには見えない。