光のもとでⅠ

 次の瞬間、ふわ、と空気が動いたかと思うと、すぐそこに翠葉ちゃんがいた。
「――っ、翠葉ちゃん?」
 彼女はソファの前に敷いてあるラグの上に座り込み、俺の袖を遠慮気味に掴んでいた。
「たくさんお話しましょう? 私にできることは何もないか、だから……」
 下から見上げられ、そう言われた。
 どうしてこの子はこんなにも優しいのだろうか。
 どうして人に対して優しくあれるんだろうか。
 いい子すぎて、時々怖くなる。
 いつか、人に対する優しさで自分を壊してしまう気がして――。
「秋斗さんは秋斗さんらしくいてください」
「……俺が俺らしくいると翠葉ちゃんが困ると思うんだけど」
 俺らしいというのは、たぶん好き勝手やるっていうことのような気がする。
 それ以外が思い浮かばないんだから、俺という人間は中身のない人間なのだろう。
「……では、私が記憶をなくす前の秋斗さんは私にどう接していたんですか? 私は、秋斗さんらしくない秋斗さんを好きになったんですか?」
 正直、なんともいえない。