普通に歩いているだけなのに、「余裕」をかもし出す男。
 なんだか悔しいな。
 花嫁に釘付けの彼女の隣に並べば、
「秋斗さん、リィのカメラ」
 と、若槻にカメラケースを渡された。
 今日は三脚は持ってきていないらしい。
「あ、私持ちますっ」
 手を伸ばしてきたのは小さなカメラケースへではなく、ハープの方。
 体重も少しは戻りつつあるらしいが、だいぶ痩せてしまった。
 この先は人が歩ける程度に整備されているとはいえ、木の根がゴツゴツしている場所を歩かせるため、何かを持たせたいわけもない。
 前回、彼女が転びそうになったときにひやっとしたんだ。
 そんなのはもうごめん……。
「このくらいなんともないよ。……さ、森へ行こうか。秋は春よりも日が沈むのが早いから」
 そう言って、森へと続く小道を歩き始めるが、彼女は後ろを振り返り蒼樹たちの動向を見ている。