「先輩は心が広いですね」
「そうでもない。ただ、自分の目が届くところに対象がいればなんとなく安心なだけ」
「……そういうものですか?」
「今のところは」
 そういえば、また好きな人を"対象"扱いしてるし……。
 先日の静さんとの会話を思い出す。
 ――「たとえそういう対象がいたとして、それが俺って人間を理解してくれないと意味がないですから」。
「その人が先輩のことを理解してくれるといいですね」
 先輩は一瞬目を見開き、すぐにいつもの無表情に戻る。
「……かなり鈍いんだ。だから、まだ当分先かな」
「じゃぁ、先輩はがんばらなくちゃですね」
「……それなりに。――翠、何か悩みがあればいつでも聞く」
 悩みごと……。
「今のところはないと思っているんですけど、時々自分でも悩んでいることに気づいてなくて……」
「翠らしいけど、バカだな」
 真顔で言われて苦笑する。
「でも、先輩のことは頼りにしています。きっとこれからも頼ることがあると思います」
「……いつでもどうぞ」
 そこへノックの音がし、秋斗さんが入ってきた。