ロータリーに車を停めるとベルボーイが出てくる。
 彼らに荷物を渡す際、「そちらは?」と訊かれたのは彼女のハープ。
「これはいい」
「かしこまりました」
 彼女のハープは俺が持ってしまったから、手持ちぶたさの彼女は若槻のもとへ行くと、満足そうな顔をしてトラベルラグを抱えて戻ってきた。
 何か持ちたいというよりは、何かしたいのだろう。
 エントランスには木田さんと数名のスタッフが立っていた。
「木田さん、久しぶりです。急な予約で無理を言ってすみません」
「秋斗様、翠葉お嬢様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
 木田さんは俺たちの背後に視線を移すと、
「いらっしゃいませ、総支配人の木田と申します」
 蒼樹に深々と頭を下げる。