「なんだか本当のお兄ちゃんみたいな感じなんです」
 とても嬉しそうに話す様に、
「なんだこれ……。嬉しい気持ちもあるのに、俺はなんだか複雑」
「なんですか、それ」
 彼女が喜ぶことは嬉しいし、若槻が殻から抜け出せたことも喜ばしい。
 が、目の前で俺ができないことをあんなふうにされると腹立たしい。
 隣の彼女がヘッドレストから頭を離して俺の顔を覗き込むものだから、彼女用の別の答えをあげる。
「若槻はさ、もうひとりの弟みたいな感じなんだ。憎まれ口叩きつつも部下でもあって――ずっと頑なだった若槻を救ってくれてありがとうね」
 それは嘘じゃない。
 あぁ……海斗が生死を彷徨うっていうのは想像するのが難しいけれど、若槻がいつ自殺してもおかしくないっていうことなら経験していた。
 あのときは、確かに俺や蔵元の生活中心に近い部分に若槻がいた。