「司、身体は覚えているはずだよ」
 そう言ってマットの上に立つ。
 目の前にいる人間の精神統一がこっちにも伝わってくるから、俺もマットの上に移動した。
 この人の放つ「気」は嫌いじゃない。
「お願いします」と声を掛け合えば静かに空気が動く。
 間合いを読もうとしても、その前に容赦なく打ち込まれる。
 かわしても、その反動を用いて投げ飛ばされる。
 何度か投げ飛ばされたあとに、道場の戸が開いた。
「……ここ、弓道場のはずなんですが」
 入ってきたのはケンだった。
 ケンが来たということはもう七時半。
 掛け時計に目をやり時間を確認する。
「会長、そろそろほかの部員も来る頃ですから」
「そうだね。か、片付けよう」