「でも、そうやって俺から逃げる道をなくして、三年で独り立ちできる道を作ってくれた。写真集の売り上げも上々。印税も入るしね」
 道のないところに道を作り、獣道だったそれをきれいに舗装するところまで詰める。
 それがきっと静さんのやり方。
 会長は立ち上がるとマットを並べ始めた。
「何を――」
「何って、もちろん合気道。さすがに受身をきれいに取れる司でも床は痛いじゃん? マットがあるなら痛くないほうを選ぼうよ」
 最初から俺が投げられることが前提というのが気に食わない。
 でも、合気道でこの人に敵うとも思ってはいない。
「合気道なんてずっとやってません」
 足取り軽やかに、鼻歌交じりで準備をする会長を見て思う。
 この人、ただ単に人を投げ飛ばしてストレス発散したいだけなんじゃないか……?
 仕方なしにマットを並べる作業を手伝った。