「もう、逃げないで?」
「逃げる、ですか……?」
「そう、色んな意味でね。自分の気持ちからも俺からも逃げていたでしょ?」
 自分の気持ちから、逃げる……?
 どういうことだろう……。それは私が秋斗さんを好きだけど断ったことを指しているの? それとも――ううん、それしか思い当たることはない。
 秋斗さんから逃げるというのは、好きだけど一緒にいられないと言ったこと? それとも、あの日から態度がぎこちなくなってしまったこと? 目を合わせられなくなってしまったこと?
 こっちは思い当たることが多すぎて困る……。
 でも、もしかしたらそれらすべてを指しているのかもしれなかった。
「俺はね、君が隣にいてくれたらそれだけで満足なんだ」
 改めて秋斗さんを見ると、屈託のない表情をしていた。
「何か話してくれないと、俺はこのまま甘いことばかり言い続けるけどいいのかな?」
「やっ、それは困りますっ……」
「くっ、全力で拒否か」
 秋斗さんはおかしそうに笑った。
「前にも話したけど、付き合うからって何かが変わるわけじゃない。今までと一緒でいいんだ。森林浴に行ったり散歩をしたり、時々翠葉ちゃんの手料理が食べられたりお茶を飲んだり。そういう時間を一緒に過ごせるだけで幸せなんだよ」
「……本当に?」
 秋斗さんは笑顔で頷いた。