立ち上がり、キッチンの引き出しから新しい布きんを取り出すと、それを翠に渡した。
「涙拭いたらカップの用意して」
 きょとんとした顔で俺を見上げたけれど、すぐにこくりと頷き少し笑う。
 俺は自動的に止まったクッキングヒーターの電源を入れ、再度湯を沸かし始めた。
 夏に渡したとんぼ玉。
 それは今、チェーンには通されておらず、髪を結うゴムに通されいる。
 そして、いつも翠の髪につけられていた。
 猫に鈴をつけた気分でいたけれど、鈴をつけられたのは自分じゃないかとか、そんな錯覚に陥るほど、俺は翠が好きなようだ――。