光のもとでⅠ

 指慣らしの単調なフレーズなのに、どこかのんびりと弾いているような感じがするから、
「時間をかけていいからちゃんと話してごらん」
 と、言われている気がする。
 翠は苦笑を浮かべながら食器棚の前に立った。
 食器棚のガラスに翠の顔が映る。
 カップを選んでいるというよりは不安げな表情。
 でも、俺だって不安なんだ……。
「翠」
「な、何っ!?」
 ガラスには俺も映っていたはずなのに、翠は全く気づいていなくて、振り返るとひどく驚いた顔をしていた。
 びっくり眼が俺を見上げる。
「訊きたいことがある」
 俺と翠の身長差は二十センチ。
 至近距離にならなければ「見上げる」なんてことにはならない。