光のもとでⅠ

 レモングラスとミント、レモンピールの爽やかな香りがするハーブティー。
 夏の間、翠が好んでよく飲んでいたもの。
 もう秋だけれど、少しでも自分たちの時間を巻き戻せるのなら、夏休みの頃に戻したい。
 あの頃のように話すことはできないだろうか。
 そんな思いこめて茶葉をポットによそった。

 すぐそこに翠の気配がある。
 キッチンに入ろうと思ってそこに立っているはず。
 なのに、一向に入ってはこない。
「カップ、どれ使うの?」
 翠の立つ方を見て訊けば、「あ、私やる」とキッチンへ入ってきた。
 それと同時にピアノの音が鳴り出す。
 まるで茜先輩の声が聞こえるようだった。