「これは人質よ?」
 茜先輩は俺のかばんを顔の高さまで持ち上げると、
「ほら行くよっ!」
 と、歩きだす。
 翠に会いたくて会いたくなくて、謝りたくて謝りたくない――。
 どんな顔をして会いにいけばいいのかわからない。
「最近の司はとてもわかりやすいわ。とくに翠葉ちゃんとケンカしてるときとか……」
 茜先輩はクスリと笑って何かのリズムを刻むように階段を下りていく。
 踊り場手前の一段を下りると、見上げるように俺を見た。
「ケンカしたなら仲直りしたほうがいいと思うよ。じゃないと気持ち悪いでしょう?」
「ケンカじゃない……」
「あら、なら何?」
 茜先輩は壁伝いに次の階段を下り始める。