今の俺はそんなにも周りが見えていないのだろうか。
「俺じゃ嫌かな? それなら、あと一時間もしたら楓が上がる時間みたいだけど……」
「あ、えと……全然嫌じゃないです。お手数をおかけしてすみません」
 少し硬質な声。
 秋兄の変な遠慮、というよりは緊張が翠に伝染した感じ。
 秋兄――。
 ふと、その存在に考えをめぐらせる。
 秋兄は翠の中でどんな位置づけにあるのだろうか。
 先輩でも友人でもないはずだ。
 だとしたら何……?
 兄の友人。否、それよりはもう少し近い位置にいると思う。
 自分に好意を持ってくれている男――そんなところだろうか。
「翠、秋兄とブライトネスパレスへ行ってきたら?」
「「え?」」
 ふたり声を揃えて反応する。