光のもとでⅠ

「栞ちゃんっっっ」
 秋斗さんが栞さんを呼ぶと、すぐに栞さんが来てくれた。
「何、どうし――秋斗くん、氷水持ってきて」
 栞さんの手が背中に触れた。
「翠葉ちゃん、しっかり息を吐き出して、ゆっくり呼吸しよう」
 背中をゆっくりとリズムを刻むように叩いてくれる。
「吸って、吐いて、吸って、吐いて――」
 その声だけに集中するように全神経を総動員させるけど、徐々に声が遠くなる気がした。
 声がよく聞こえない。
 そのとき、
「翠葉っ」
 と、大きく肩を揺さぶられた。
 そちらに目をやると、湊先生が立っていた。
「苦しいだろうけど意識してゆっくり呼吸しなさい」
 自分では体の自由が利かなかったこともあり、口もとを押さえていた手を先生に剥がされる。
 剥がされた手はそのまま硬直して変な形に固まっていた。
 手を外したことで呼吸が一気に荒くなる。
 息をしているのに苦しくて仕方がない。空気が吸えない。
 苦しくて苦しくて視界が歪む。ただ、繰り返し繰り返し湊先生に呼吸の指示をされていた。
 どのくらいそうしていたのかはわからないけれど、しばらくすると呼吸は少しずつ落ち着いてきた。
「そう、上手よ。ゆっくり大きく呼吸をしなさい。吸ったら最後まで吐き出すこと。聞こえてるなら頷きなさい」
 先生の目を見て頷くと、「よし」と額を撫で上げられた。