なんの変哲もない階段を下り、立ち止まるでもなくただ通り過ぎて外へ出る。と、そこに翠たいた。
 簾条と海斗、佐野を伴って飲み物を買いにきていたらしい。
 俺はなんと呼ばれるのだろう……。
 それを考えるだけでもはらわたが煮えくり返る思いだ。
 人生ゲームで進めてきたコマをマスいくつか戻される気分。
 俺がどれだけ時間をかけて名前を呼んでもらえるようになったと思っている?
 翠には記憶がないかもしれない。
 けど、こっちにはしっかりと残っているんだ。
「翠」
「何?」
 翠は一瞬にして顔をしかめた。
 たぶん、俺の不機嫌が伝染した。
 でも、俺はそのくらいにはすこぶる機嫌が悪い。