朱莉なんて口をぽかんとあけている始末だ。
 たぶん、言ったことに対して的外れな答えが返ってきたか、話の方向がとんでもなくずれたか――そんなところだろう。
 彼女の脳内変換力の素晴らしさは千里の折り紙つきだ。
 もう少しことの成り行きを見守りたいところだけど、あと少しで始業チャイムが鳴る。
 だとしたら、棟の中ほどにあるトイレから、桜林館寄りにある一年B組へ戻るのにはそろそろここを出なくてはいけないだろう。
「翠葉ちゃん、そろそろ戻らないと始業チャイムが鳴るよ」
 ヘアピンも直し終え後ろを向くと、彼女は時計に目をやり、「わ……」と驚いた顔をした。
 そして、次に口にした言葉は、
「ごめんなさい。教室に戻らなくちゃ……。またお時間があるときに声をかけてください」
 だった。
 そんな彼女を見送り、後ろにいるふたりに目をやる。
「ご感想は?」
 訊いてみたくもなるというものだ。