「何を言われたのかは聞いてないわ。でも、さしづめ秋斗くんには近寄るなって内容なんじゃない?」
「……少し違うかな? 雅さんは教えてくれたんです。秋斗さんのお嫁さんになる人は子どもを産める健康な体じゃないといけないとか――」
「……翠葉ちゃんはそれを真に受けたの?」
「真に受けたというか……納得してしまったんです」
「翠葉ちゃん、ちゃんと自分で納得したことならこんなふうに葛藤はしないものよ?」
 葛藤……?
「雅の言うことなんて気にしなくていいの。翠葉ちゃんがどうしたいか、それだけよ? それにね、結婚なんてまだ考えなくていいの。付き合ったからってその人と結婚しなくちゃいけないなんてことないんだから」
 コンコン――。
 ドアをノックする音にびっくりした。
 ドアは開いている。そして、そこにはドア枠に寄りかかるようにして秋斗さんが立っていた。
「お話中失礼。栞ちゃん、その話のつつきは俺がしてもいいかな?」
「いいわよ。もう……いつまで放っておくのかと思ったわ」
 秋斗さんに向かって言うと、栞さんは再度私に視線を戻し、
「少し秋斗くんと話しなさい。でも、いつもの癖はダメよ?」
「……癖?」
「そう。翠葉ちゃんは頭の中で考えて答えしか言わないことがあるから。ちゃんと考えている過程も相手に伝えること。いい?」
「……はい」
 栞さんはドアを閉めて出ていった。
「さて……翠葉ちゃん、何から話そうか」
 秋斗さんがベッド脇までゆっくりと歩いてきた。
「何を話せばいいでしょう」
「まずは、俺を振った本当の理由かな?」
 にこりと笑顔を向けられたけれど、思わず唾をゴクリと飲み込む。
 秋斗さん、怒ってる……?
 笑顔がいつもの笑顔ではなかった――。